質問「過去と未来を考えるな、今に集中して生きろ、……とはいえ、計画を立ててやっていかなければいけない時、注意することはなんですか?」
回答(スマナサーラ長老)
別に言いたいことはないんですね。お釈迦様の言葉を変えてもっと、と言うことはできません。
われわれが生きているのは今の瞬間だけですからね。
今の生き方を具体的に生きること。明後日のことを考えるとき、良く心の中を見てみましょう。
明日、明後日のことを考えるとき、自我があります。自分が明日も明後日も生きているんだ、これやらなくちゃ、あれやらなくちゃ、とかね。そこですごく煩悩が生まれちゃって、自由がなくなっちゃって、明るさがなくなっちゃって、心が不安を感じて緊張感が生まれて、いら立ってくるんですね。
それをちょっと経験した方がいいと思いますよ。
そうすると、いかに今の瞬間に集中することが、気楽で穏やかで問題なくうまくいくのか、ということが分かってくるんです。
人としゃべる時でも、明日のことが、昨日のことが頭の中に絡んでいると、すごくトラぶります。
たとえば、「こんにちは」と言われたら、何のことなく「ああ、こんにちは」と明るく返した方がいいんですね。心の中で、「偉そうに昨日のことを忘れて……」と過去が絡んでくると、失敗するんですね。
だから今の瞬間で見事な結果を出せるように。「見事な結果」と言うのも余計な考えですから、とにかく、今の瞬間失敗しないでうまくいくようにしたほうがすごく楽なんですね。
精神の安穏というのはとても大事なことです。
われわれが考えているような、「計画立てなくちゃあかん」と言うのは、そんなに大げさなことではありません。すごく単純なことでね。
明日の、来年の計画を立てなくちゃいけないとしたら、それは簡単なことで、着々とスケジュールをつけておけばよろしいんです。
計画が実行できるかどうかよくわかりません。わたしの場合も先々いろいろとスケジュールがあるんだけど、そんなの実行できるかどうかわかったもんじゃないんだから、わたしは今日だけで生きているんです。明日死んでいたら、一年分計画があったとしても、別にどうしたことはないでしょう。
しかし人間の社会ではそれなりのスケジュールを組み立てなければいけないんだから。別にどうしたこともないんです。スケジュール作るのも今ですから。
気を付けてほしいのは、「今、明日の計画を立てる時間である」という時間でそれを作らなければいけないんです。そうするとしっかりしたものが出来上がるんですね。
他の仕事しながら計画を立てるのではなく。
今日のやるべきことが終わったら、「じゃあ明日のスケジュールをちょっとメモっておかなくちゃいけないんだ」と。それをメモしたら、次にやることに移った方がいいと思います。
あまり真剣に、感情的にならない方がいいんじゃないかと思いますね。なぜならば、世の中で計画と言うのはいくらでもありますが、うまくいかないんですね。計画通りには。どうなるかわからないんですよ。
その時その時、柔軟性をもって生きていかなければいけないんですね。
政治家、国は計画を立てますね。うまくいくか行かないか、よくわからない。突然何か起きちゃうんですね。
最近、日本人二人の人質事件がありますね。突然そういうことが起きる。関係する大臣にも、もともと他にスケジュールがあったんですね。あったんだけど、それは取り消して、人質事件に時間を使う。
「今まであったあなたの計画は?」と聞きたくなるんだけどね。でも別に(その計画をやらなくても)大きな問題が起きたわけじゃないしね。外務大臣が人質問題だけに取り掛かっているからと言って、国際問題に何か問題が出たと言うことはないんですね。ということは、無駄な計画だったんですね(笑)
他の場合も同じことですよ。計画はあるんだけど、国内でも何か起きると、さっとそれに取り掛かるでしょ? 今までの計画は? 全然実行しない。だからどうと言うこともない。と言うことは、その計画自体大したことない。人間が組み立てる計画っていうのは。
正しく言えば、「今の状況がこのまま続けばこれをやります」ということなんです。それを忘れています。
今の状況と言うのは今だけ。明日になったら分からないんですね。だから計画をたくさん作っても、大したことはないんです。
わたしたちには、それでも、気を付けるべきポイントがあります。
わたしたちは一日、一日、年を取るんです。一日ごとに衰えていくんです。一日ごとにこの世を去って行っているんですね。
それは、そのコンディションは、変わりません。一定しているんです。
だから計画を立てる場合は、基本的な条件がすごく大事なんですね。基本的な条件が変わらない場合は、計画を立てられます。
仏教的に考えれば、明日のことを考える場合、それだけです、できるのは。
わたしは日々衰えてくる、日々弱くなっていく、日々この世を去る日が近寄ってくる、ではどうすればいいか? その時出てくるものは、実行できるし役にも立つし、問題はないんですね。
(質問者が)おっしゃった計画と言うのは、「わたしは明日も大丈夫、変わらないでしょう」という前提があります。その計画はそんなにうまくいかないんです。
その二つを考えてください。
- 計画を立てるときは、計画だけを立てる。
- 今日やるべきことを実行する。
今日やるべきことをやればいい。今日は何の失敗もない。
正しい生き方は、一つ一つやってみて、「これはうまくいった、これもうまくいった。これはこれ以上うまくいかない」と、日常の中でできることで最高の結果を出しているんだ、と仕事ごとに、時間ごとに確認して、自分で言い聞かせる。「これもうまく言った、これもうまくいった」と自分に言い聞かせる生き方をしてみれば、すごく楽しくなると思います。
その場合は、将来や過去が入ってくると面倒くさいんですね。将来や過去はどうでもいい、今やっていることがうまくいったんだ、と言うやり方が正しいやり方なんですね、お釈迦様がおっしゃる。
過去のこと、将来のことが今の仕事に邪魔する。だから時間が無くなっちゃうんですね。時間は人間の観念なんですけど、大切なファクターです。
時間は存在しません。人間の概念です。しかし根拠がなく表れたものではない。時間は物事の変化なんですね。人間がそれを観察したところで、時間概念が生まれています。
時間を大事にしてほしいというのは、物事の変化なんです。
物事が変化する場合は、それに時間がかかるんですね。
時間は一本で、一つの時間で一つのことしかできません。
一秒は多重になって働くわけじゃないんです。一秒が三本で成り立っているなら、三つの仕事ができるはずです。
今何かやっているときは、過去がよぎって来ると、それにも時間を取られる。将来のことがよぎるとそれにも時間とられる。だから、たとえば一分かかる今の仕事が完了しないんですね。
一分の仕事に、過去が15秒、未来が15秒割り込んで(一分から計30秒を)奪ってしまうと、30秒しか残っていないんです。一分の仕事に対して。一分の仕事の半分しかできていない。だから期待した結果が出ていなんです。
みなさまにやってほしいことは、今現在の時間を、未来と過去に浪費させているのか、ということに気づいてください。それを実験と言うか、体験してみてください。
「ああ、時間が無駄になっている」と。
完全に気付くことはできませんが。人間は結構妄想するんだけど、それを分かっておいた方が、危険は危険であると分かっていた方がいいでしょう。
というわけで、ちょっと自分をチェックした方がいいんですね。
過去と将来が入ってくると、頭だけただ回転して、時間が無くなってしまう。何もやっていない。
そういうことで、適当に、気楽に、計画を立てるのは構いませんが、実行するのは、今の瞬間の結果になります。実行だけが結果になります。それを気を付けて生きてみたほうがいいと思います。
(東京・法話と冥想会 2015.01.25
http://www.ustream.tv/recorded/57959831 動画上で04:20~24:50よりメモしました)
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