質問「手を挙げているときは、感覚を感じながら、心で手をあげているという説明がありましたが、これは『私』があげているのではないとのこと…『私』と『心』の違いがいまいちわかりません」
回答(スマナサーラ長老)
機械がありますね。部品を組み立てれば動くでしょう? でも部品一つにはなんの力もないんです。しかし、その部品は組立てたら、命があるかのごとく動くんですよ。
そのように、心と体もいろんな部品で組み立てられていて、わたしがいるかのごとく動くだけです。それは部品の一個一個の仕事に分けられます。
たとえば、手を挙げるときは、まず感覚が必要ですね。感覚というのは心の基本的なところ。感覚があっただけでは、手は上がりません。それに、「挙げたい」という意思が加わります。意志は心です。「挙げたい」という気持ちが生まれます。それがエネルギーなんです。
その気持ちがおこると、体の中で動くエネルギーが生まれるんです。それで手が上がるんです。
「挙げたい」というのも心所(しんじょ)*1の一つですからね。心所をしっていますかね? アビダルマの世界です。*2
たとえば機械を組み立てても、電池を入れたりとかしなければならないでしょ? 動力が必要なんですね。生命の場合、意志が動力となって体を刺激するんです。そうすると筋肉の中で、物質の中でエネルギーが生まれるんです。
物質のエネルギーというのは、仏教から見ればどうということもない、地水火風の構成が変わるんです。地水火風は素粒子だから、素粒子を心で管理するんです。手というのは肉体だから、心で管理できないんです。しかし、手は地水火風でできているんだから、心で管理できます。
手は重いんですけど、地水火風で「挙げたい」という気持ちが入ると、地の物質が減って火とか風の物質の方が多くなるんです。そうすると、どんどんと上に行くんです。しかし、どこまで上に行くのかということを、また感覚が監視するんです。感覚は、挙げた分が新しい感覚に、挙げた分新しい感覚に、と瞬間瞬間、感覚が変わっていくんです。変わっていくたびに、意志がエネルギーを入れるんです。
わたしが手を挙げていって、上の方へ来たら、感覚が変わるんです。わたしの場合は、かなり痛くなるんです。痛くなると意志が、今度は別のことを言うんです。「そこで止めなさい」と。止める意思が生まれるんです。止める、という意思が生まれて、下げる、という意思が生まれます。
そうすると、地水火風の構成が変わって、手が下がっていきます。よく管理していると、手を挙げたり下げたりと、手が軽いんです。下りてくると手が重いんです。物理学的に見るとおかしいでしょ? でもほんとに重いんです。物理学的には、重さは変わらないはずでしょう。
たとえば40キロくらいの荷物を運ばされると、嫌でしょう、重くて。しかし、40キロの人間を抱き上げられますか? できますね。
体力がないお母さんたちが、子供を抱っこして一日中動いている。それで子供の重さを量ってみて、その子供と同じ重さの荷物を背負っていてください、というと、疲れた、腰が痛いということになる。
しかし、その女性は子供なら一日中抱っこしているんです。
わたしも、ときどきゴータミー精舎に来る子供を抱っこすることもあります。年取って体力はそんなにないんだけど、さっと抱き上げられます。しかし、荷物なら重くて、いつも「ちょっと、お願いします」と他の方にやってもらいます。
荷物じゃなくて人間になってくると、こうも違います。なぜでしょうか?
それはお互いの心のつなぎが生まれるんです。
わたしは楽したい、という気持ちが生まれていて、子供は楽させたい、という気持ちが生まれている。子供が、「じゃあ抱っこしてもらおうか」という気持ちになっているんです。その気持ちに体力が、重力が減っているんです。
ときどき子供が、「ヤーダー!」と座り込んでいるでしょう。その時、お母さんは抱けないんですよ。重いんですよ。座ってお母さんを困らせたい、ということだからね。
お母さんが、「はいはい、じゃあ抱っこしてあげましょう」と優しく言っちゃうと、子供の気持ちがキシッとと変わるんです。それで軽くなります。
そういうことだからね、心によって物質は変化していくんです。そういうシステムをいろいろ、瞑想して自分で発見していかなくてはいけないんですね。
(関西定例瞑想会 2007.07.15
http://www.voiceblog.jp/najiorepo/388952.html
「③ 感覚を感じながら、あげているときは心であげているという説明があったが、これは私があげているのではなく…私と心の違いがいまいちわからない」(音声ファイル下)よりめもしました)
関連エントリ:物質と心の働き。原子も、電子も、素粒子も、心も、無常ならざるものはない【アビダンマ】
すべての「説法めも」を読むには:
*1:心の中身のこと
Mental factors(心所:しんじょ) - 瞑想してみる
*2:
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