質問
「お釈迦様は、心の存在を、出家されるまではハッキリと分かっていたんですか?
『あれ、おかしい』と思って苦行に入られたと聞いたことはあるんですけど、王子様として生まれて奥さんもいて子供もいて、何の不満もないし、そのままでもよかったはずなのに、『あれ、これはおかしい』と思ってすべてを捨てて出家されるまで、心の存在というのは分かっていたんですか?
それともあやふやで何かを探そうと思ってお城を出られたのか、そこをちょっと教えていただきたいです」
回答(スマナサーラ長老)
この場合は、わたしの個人的な考えで答えなくてはいけなくなりますけど、わたしは、お釈迦様が出家されるときは、心の存在とか分かっていなかったと思いますよ。
社会全体で魂の存在を信仰していたんだから、お釈迦様だけ在家の時に発見するはずがないと思います。
答えは別にあるんです。
お釈迦様には、生まれる前から親がすごい期待していたんですね。期待の星が現れると。
お釈迦様がおなかに入った時点から全部変ったんですからね。
それで赤ちゃんの時からも、シッダールタ王子にすべて期待しているんです。父王まで。だから根っこから王子なんです、シッダールタ王子は。王子というのは我を張るものじゃなくて、「みんな私に期待している。応えなくちゃいけない」と、要するに、自我がないんですね、初めから。「俺が遊ばなくちゃ」とか。
そうではなくて、大変な義務を負っている。周囲から、「あなたはわれわれみんなを幸せにしてくれるんだ」と。だから小さい時から自分に与えられている馬鹿でかい期待が、重荷になったと思います。でも責任は果たしたいんですね。
ですから政治家として物事を考えたんじゃないかなと思います。
で、天才でしょう。
12歳くらいになってくると、一切の学問、すべて終了。軍人としても訓練がほとんど完了。だから一人前なんです。16歳で結婚したんだからね。
だから自分が王になったら、どうすればいいかとかね。あるいは王子として、皇太子としてどんな仕事をすればいいかとかね。そういうところは、ものすごくお釈迦様は真面目ですから。そういうのは見えてきますよ。
精密に真面目なんですね。精密に。
だから王子として、将来王になる者として、人間が期待するものに応えられますか? という問題を考えたんですね。
そこで四つの現象を見たでしょ。
老いた人を見て。病気になった人を生まれて初めて見て。死体を生まれて初めて見てびっくりしたんです。ショック受けちゃったんですね。
人間の苦しみをなくそうとして、お金をあげても、たくさん畑を作らせてあげても、人間の問題は解決しませんよと。老いることはみんなにとって巨大な問題だよと。病気になることは避けられない問題であって、立派な王でいてもなんやこれやと。何もできんでしょう。期待されているのに。
だから「完璧な王になりたい」という一貫した気持ちで出家したんじゃない?
それは、四番目に見た「修行者」でしょう。ですから完璧な王様は、在家の王ではないんだと。在家の道、家族を作って養って、年を取って嫌々で死ぬという道ではいないんだと、出家を決めるんですね。
このエピソードは論理的に成り立っていますよ。
それでブッダになったところで、わたしはもう王であると言っているんだからね。しかし、真理の王であると。
だからお釈迦様は王になる道を究めたんです。
俗世間の王だったら、隣の国とけんかして、ちょっと自分の国を平和に保つ程度でしょ。でも貧困はなくならないし。弱肉強食はなくならないし。人間の精神的な問題はなくならないし。
だったら、俗世間の王ではなくて出家の王でなければいけませんね。
それで王になったんです。悟りっていうことは王になったことなんです。
「わたしは王である。偉大なる王である。しかし真理の王なんですね。法王なんです」
法王という言葉をお釈迦様は何の躊躇なく使っているんです。真理の王様。
それで人間に限らず神々にも真理が必要ですから、すべての生命の王になりました。
だから俗っぽく言えば、お釈迦様が王になる道を究めるために家を出たんです。
家に留まったならば、小さな釈迦族の王で終わっちゃうんです。
(お釈迦様はなぜ出家した?(後編)に続く)
(関西月例冥想会 2015.4.4
https://www.youtube.com/watch?v=uaX9B4_mWZw からメモしました)
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「だから、お釈迦様なんですね。人類の苦しみ、人類の悩み。生命の苦しみ、生命の悩みはこのままで直りますかね? これは決して直らない。だから、自分で王になっても意味がないんだ、と。ただ狭い範囲で、釈迦族の面倒は見られますけど、インドは国一つじゃなくてたくさんあったんだから、政治家が何かやっても大したことはできないでしょ。政治家には。」
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