映画「帰ってきたヒトラー」を観た。
この映画は、2012年にドイツでベストセラーになった小説「帰ってきたヒトラー(邦題)」が原作。自殺したはずのヒトラーが、なぜか現代の枯れ葉が積もる地面の上で目が覚める。テレビ局に目をつけられたヒトラーはお笑い番組に出て、一気に人気者になっていく……、というストーリー。
わたしがこれを観たシアターはそれほど広くなかったものの、ほぼ満席で、お客さんたちはよく笑っていた。特に、2004年の映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜」のパロディシーンでは一番の爆笑が。でも、それを最後に、観客はだんだんと笑えなくなるんですよね。
わたしたちはコメディ映画を観ていたはずじゃ? 実はホラー映画だったのでは、とそのとき気づく。
この映画はもちろんフィクションだけれど、部分的にドキュメンタリー映像が挟み込まれている。
主役の俳優がヒトラーに扮したまま、ベルリンやミュンヘンといった大都市だけじゃなくてドイツ中を車で回って、いろいろな人としゃべる。政治家やドッグブリーダー、礼儀作法のコーチや陰謀説を唱える人たちと、実際にアポを取り、街を行き交う人々に話しかけ、興味津々で近付いてくる人々と写真を撮ったりしている。
そのときのことを、主演俳優はこう話す。
「僕が役者だということを完全に忘れている人たちもいた。
真剣に話しかけてきた彼らの会話から、 彼らがいかに騙されやすいか、いかに歴史から学んでいないかがわかったよ。」
(映画公式サイト「国民とヒトラーの触れ合い―前代未聞のドイツ行脚―」より
http://gaga.ne.jp/hitlerisback/)
コメディアンっぽくても、ヒトラーはやっぱりヒトラーだから、ときどき現れる狂気の行動がめっちゃ怖い。しかも彼自身はそういう面を別に隠してない。自分の指を噛んだ犬を射殺したり、車のヘッドランプに止まったハエを叩いてランプごと破壊したり、ユダヤ人への憎悪を慚愧(ざんき)なく淡々と話す。
周りの人はそれをちゃんと見ているし、聞いている。でも、非難してもちょっと時間がたつと忘れてしまったり、笑いでごまかしたり、彼を利用して儲けなくっちゃとか下心があったりで、とにかく見て見ぬふりをする。
最大のポイントは、いくつかの狂気の行動を除けば、ヒトラーは親しみやすくて好感度の高い人物ということ。
好感の持てる人物が、人びとの話に耳を傾け、不況への怒り・移民への憎しみを言葉巧みに掘り起こした後、スカッとするセリフで怒り憎悪を代弁し、「よくぞ言ってくれた!」と喜ばせていく。
だからこそヒトラーは、「人々が、わたしを選んだんだ」と言えるわけだ。
つまり、当時もそして今も民主主義はほとんど感情で突き動かされている。
いろいろと細かく政策のこと、政治家が何を言っているのかと調べるのは結構面倒くさいから、ザックリとふんわりと、おおまかに感じ取ったもので判断している。
ザックリふんわり、なんて人気のお菓子のことみたい。
最後に、なぜヒトラーが現代に突如現れたというストーリーを作ったのか? と疑問が浮かんだとき、出会った一言を。
「『ヒトラー』は死んでいない。なぜなら、それは自分の中に見つけることができるから」
(「帰ってきたヒトラー」より)
明後日は参議院選挙投票日――