前回 は、お釈迦様が普段は使わない一人称の動詞 brūmi(ブルーミ)を使って、「わたしは自分の責任において次のように断言します」と、阿羅漢とはいかなるものかと表明した、おどろきの発言をご紹介しました。
今回の「スッタニパータ5彼岸道品3学生プンナカの問い」でお釈迦様によって語られた《阿羅漢の特徴》の詳細については、スマナサーラ長老の解説動画 http://fb.me/7uqrrOT8g の後半部分をご覧いただければと思います。
( 阿羅漢は料理できないその理由を聞いて、「縦のものを横にもしない」という言葉が浮かびました。ただし、ここでの意味は、「おーい、お茶」とか「ちょっと醤油取って」と一歩もコタツから動かない人というわけではありません。)
「これでは、阿羅漢(ブッダ、覚った人)が俗世間にいるわけないな~」と深く納得しました。
それと話は別に、翻って自分自身をみると、仏道実践しているのにあまりにもダメダメで、ハァ……とため息が。
そこにきて、阿羅漢の在り方を知っちゃうと……。
仏道を頑張っている人ほど、かえって落ち込む、という現象は確かにあるかもしれません。
それで、こんな質疑応答がありました。
「お釈迦様の教えは、自分にはとてもできそうもない世界です。
挑戦してみたけれど、自分には歯が立ちません。
かと言って、何もしないままだと、悩み苦しみの中で生きることになるのではないでしょうか?」
スマナサーラ長老は、「うん、うん」と頷いてから、
難しい経典を読んで、「自分にはできない」と落ち込むことはありませんよ。
自分にはわからない経典は、ただ勉強するだけでもいいのです。
自分にとってわかりやすい経典を選んで、それでまたトライしてみてください。
というような趣旨のことを、まずおっしゃっていました。
それから、「ここまでは一般論です」と断って、次に、この質問者の方向けのアドバイスをしていました。
あなたはずっと悩んでいたでしょう。
そこで、「希望があるから悩みが起こるんだ」という、離れたところからの発見が欲しかったんです。
主観的ではなくて、客観的に。
悩んでいるのは主観かもしれませんが、「なんでコイツは悩んでいるんですか?」と自分を客観視してください。
「期待があるんだけど、希望通りにいっていない」と観えてきます。無数の期待があって、その通りにいっていない。
では試しに、期待をなくしてみましょう。または「どうでもいいや」というようにしてみましょう。
それから、「期待があると、苦しくなる」vs.「期待がないと、苦しくならない」という実験を日常生活でしてみてください、ということで、例として「丸めた紙をゴミ箱に投げる実験」を紹介されていました。
自分が丸めた紙を投げる。
入ろうが外れようが、期待しないことにする。
投げる力によって、角度によって、紙が落ちるところは決まるので、自分にはどうすることもできないから。
まず、10枚の紙を10個に丸める。
10個全部がゴミ箱に入ったら大成功だと期待する。
期待してから投げて、9個入って、1個外れてしまう。
すると「一個入らなかった」と悔しいんです。
もう一人の人が、何も期待せずに10個のゴミを投げる。
6個入って、4個外れる。
その人は何個入って何個外れたかを調べるだけ。
悔しくなることはありません。初めから期待がなかったんだから。
そういうちょっとしたゲームのようなものを観察することで、期待が苦しみや悩みを作るんだと勉強してみてください。
ポイントは、「冥想しながら、智慧の方があらわれて来るように工夫する」ことのようです。
続けて、この質問者の方につぎのように助言なさっていました。
「覚りたい」と思えば思うほど苦しくなっちゃうんです。
具体的にわたしたちにあるのは存在欲なんです。それをなくしなさいと言っても、なくせません。
だから「存在欲を観る」んです。
存在欲があるから、悩んだり憎んだり嫉妬したりするんだ、と観えてくる。存在欲によって生まれるんだと。それを観てみるだけなんです。
そうすると、「錬金術」を諦めたような感じになります。
そうしたら、質問者の方が、
「目的や目標をもって冥想しているのがダメだということですか?」
と尋ねていました。
「覚りたい」という目標で冥想するのがいけなかったの?ということですね。
これは重要な質問です。
長老、いかに??
目標を持つべきでないと思っても、あなたに目標が現れるのなら、それはあなたの状態だから「ああ、目標が現れた」と観察する。
それでどうなったのかというと、「だから苦しんでいるんだ」と観るだけです。
「欲が現れちゃった。結果は?」「苦しいね」と。
そうやって淡々と観るだけ。
いつか、今日の経典を参考にしていれば、「目標は立たないんだ」とわかります。
希望=存在欲 だと。
存在欲があって何かいいことがあったのかと調べてみると、いいことは何もないんです。悩み苦しみはある。
存在欲がある人には、死にたくないし、歳取ることは嫌なもの。存在欲がある人にとっては仕事を失敗するのはとんでもないことだと思ってしまう。
観察して、存在欲が成り立たないと分かったら、希望も成り立たないとわかる。
それで終了です、プログラムが。自然の流れです。苦しむ必要はありません。
(目標も目的もないから、あえて言えば)どうでもいいから観察するんです。
(終わり)