ブッダ ラボ - Buddha Laboratory

Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論

World Buddhist #7 サピエンス全史から「ホモ・デウス」へ

 

日本テーラワーダ仏教協会の機関誌「パティパダー」2017年11月号に寄稿した記事を、許可を得て転載します。

 

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World Buddhist #7 サピエンス全史から「ホモ・デウス」へ

 

 

「AIの発展によって、21世紀には用無しの人々からなる巨大な階級が作られる可能性がある。おそらく21世紀の社会史や政治史は、この問題や希望、そして恐れを中心に動くことになるだろう――」

世界的なベストセラーになった「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリ氏が、その続編となる「Homo Deus」(ホモ・デウス。邦訳は2018年秋予定)を出版しました。邦訳に先行して発売された「ホモ・デウスDVD Book」でハラリ氏は、ホモ・デウスの概要の一部を、冒頭のように語りました。

 

世界的なベストセラー「サピエンス全史」

「サピエンス全史」では、歴史学者の著者が過去の膨大なデータから、「神、会社、法律、お金、国家」というのがフィクションだと解き明かしました。人間世界のねつ造を破るということを、綿密なデータ分析からやってのけたのです。スマナサーラ長老をはじめとする仏教法話などで、ねつ造を破った世界を垣間見ている方々には、法話を裏付けるように展開されていくハラリ氏の語り口に痛快さをおぼえたのではないでしょうか。

 

著者はヴィパッサナー実践者

さてこのハラリ氏ですが、「サピエンス全史」を書くにあたっては、ヴィパッサナーの実践が活かされたと語っています。また、日々の実践の他に、毎年インドで60日間のヴィパッサナー・リトリートに参加しているそうです。ハラリ氏は、「ヴィパッサナーで、フィクションと現実、実際のものとわたしたちが自分で作った物語の違いに気づきます。日々認識する約99パーセントは、わたしたちの心の中の物語です。これは歴史にも当てはまります。ほとんどの人は、宗教的な物語、ナショナリストの物語、当時の景気を語る物語に支配されてしまって、これらの物語を現実だと思い込むのです」とインタヴューで語っています。(注1)

 

また、同じインタヴューの中で、「60日間の瞑想リトリート体験はどのようなものか?」と問われて、このように答えています。

 

「まずお腹や足、呼吸など体の基本的な感覚から始めます。これで実際に何が起きているのか観察する能力が身につきます。それから心の中で起きていることを観察します。身体の感覚を観察できるようになれば、自分の怒りなどに気づけるようになります。心がより集中してくると、この怒りがどこから来ているのか、この恐怖がどこから来ているのかと、観察を始めます。ほかに何もしようとしない。自分の怒りについて話をしません。それと戦おうとしません。ただ観察する。この怒りは何ですか? この退屈は何ですか? わたしたちは何年も何年も何年も、怒りと恐怖と毎日の退屈を経験してきました。リトリートの期間は、そうしたものに対して『何もしない』というチャンスが与えられます。ただ観察するだけです。怒りは何か、どのように体内で感じるのか、怒っているとき実際に何が起こっているのか、と」

 

この答えはインタヴュアーにとって少々不満だったのでしょうか。「それをやり続けるということは大変素晴らしいことですが……」と続けて、「オバマ元大統領などが絶賛した『サピエンス全史』を書いた著者として、もっと会議に出席したり講演を行ったりはしないのか?」と質問しています。しかし、ハラリ氏はきっぱりと、「それも魅力的ですが、瞑想リトリートの大切さを分かっていますので」と答えました。そして、「今年のスケジュールを立てるときも、一番初めに60日間のリトリートの予定を書き込みました」と明かしています。

 

また、日常で気をつけていることをこのように話しています。「わたしたちは莫大な量の情報によって浸水したような状態です。さまざまな外的な要因によって自分自身がハイジャックされています。わたしは瞑想中だけではなく、行動しているときも、注意深く意識して、外部の力が自分を支配しないようにしています」

 

未来予想は「悲観的」か?

ヴィパッサナー実践を日々行う歴史学者が導き出した未来は、冒頭で紹介したように誰にとっても“明るい未来”とは言えないようです。そうした内容をハラリ氏が講演するうちに、会場はどんよりとした雰囲気になってしまいました。

そこで司会者から、「あなたが悲観主義者ではないことを証明してください」と投げかけられ、「悲観的と捉えるかどうかは年齢によります」と即答して、司会者がグッと言葉に詰まる場面がありました(司会者はBBCニュース経済エディターのカマル・アーメッド氏、50歳)。

ハラリ氏は、「20歳以下の人が『ホモ・デウス』の話を聞いたならば、悲観するのではなくワクワクするでしょう。ある年齢までは変化を好むからです。一方で、ある年齢以上になると現状維持が仕事になります。大きな変化を好みません。21世紀の社会では、常に学び、変化し、自己改革が必要になります。既存のモデルでは通用しません。本来、人は常に変化が可能で、40代、50代、60代でも自己変革を続けられるものなのです」

 

 もしかすると未来では、“現状維持”という言葉が死語になっているのかもしれません。(了)

 

 

 

 

注1 

Yuval Harari, author of Sapiens, on how meditation made him a better historian

What kind of mind creates a book like Sapiens? A clear one.

https://www.vox.com/2017/2/28/14745596/yuval-harari-sapiens-interview-meditation-ezra-klein