World Buddhist (ワールド ブッディスト)は、テーラワーダ仏教協会機関誌「パティパダー」(送料込み600円)で連載中です。
今回は、2018年5月号に掲載された「World Buddhist #13 各国の仏教ニュース」を転載します。
転載するのをしばらく忘れていたので、ちょっと話題が古く感じますがご容赦下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「World Buddhist #13 各国の仏教ニュース」
この「World Buddhist」は、今回で連載13回目になりました。ということは前回で、連載開始から一年が経っていたわけです。皆さまには、お付き合いくださりありがとうございます。5月はパティパダーが新年度の月ということで、少し原点に立ち戻り、各国の仏教ニュースを概観していきたいと思います。
マレーシア
仏教徒の母親とイスラム教徒の父親の間に生まれた37歳の仏教徒女性・ロスリザさんは、非イスラム教徒である公的な承認を求めて、セランゴール州の裁判所に訴えています。マレーシアでは、遺産相続、結婚、離婚、児童後見に至るまで、さまざまな個人法がイスラム教徒の生活に適用されています。例えば、セランゴール州に住むイスラム教徒の女性は、州のイスラム家族法によって、非イスラム教徒と結婚することができません。ロスリザさんの法廷闘争は2015年に始まりました。ロスリザさんは両親が法的に結婚していなかった事実などを提示しましたが、高等裁判所はロスリザさんの訴えを退けました。理由は、両親がイスラム教徒の結婚をしなかったことをロスリザさんが証明できなかったから、だそうです。ロスリザさんは控訴し、控訴審では原告に有利な決定が出て、裁判は再び別の高等裁判所へ差し戻されました。しかしその裁判所でも、ロスリザさんの訴えは棄却されました。その判決に対する控訴審が、3月13日に行われました。ロスリザさんの弁護士は、「マレーシアの裁判所がこの紛争を解決できなかった場合、イスラム教という宗教が他宗教徒に強制的に課されることになります。それはマレーシアで保障されている憲法上の権利と人権に反しています」と述べています。(注1)
ミャンマー
約70万人のイスラム教徒ロヒンギャが、ミャンマーからバングラデシュに逃げて難民になりました。ミャンマー政府は約400人の難民の帰還を受け入れると発表しましたが、帰還後の住宅がまだ十数人分しか用意されておらず、大幅な準備不足が露呈しています。また、対イスラム強硬派で知られる仏教指導者・ウィラトゥ師が、ミャンマー政府から一年間の説法禁止処分を受けていましたが、今年3月にその期間が終わりました。ウィラトゥ師のフェイスブックは、管理者側の判断によって未だ閉鎖されたままです。しかし、ウィラトゥ師は「これからもナショナリストとしての活動を続ける」として、「フェイスブックがわたしを締め出しても、YouTubeやTwitterがある」と発言しています。(注2)
スリランカ
3月8日、反イスラム暴動により2人が死亡し、多くのモスクや住宅が破壊されたことを受けて非常事態宣言が出されました。スリランカで非常事態宣言が発令されたのは7年ぶりで、それ以前は、2009年に終結した反政府武装勢力「タミル・イスラム解放のトラ(LTTE)」との内戦があった約30年のあいだ非常事態が敷かれていました。8日の暴動の後、数百人の僧侶が首都コロンボに集まり、反イスラム攻撃を非難しました。スリランカ政府は一時的にフェイスブックなどのソーシャルメディアを禁止し、暴動後の状況が落ち着いてから禁止を解除しました。今回の暴動の一部はフェイスブック上で扇動されたとの見方から、政府関係者は「ヘイトスピーチを繰り広げる人々に対するフェイスブックの対応は遅すぎた」としています。スリランカ通信相はフェイスブック関係者と話し合い、ヘイトスピーチに素早く対応するため新たな方法を設けることで合意しました。(注3)
インド
今から2年前の2016年、グジャラート州ウーナで、牛の皮を剥ぐ作業をしていた畜産業に就くダリット(不可触カースト)7人が、町の広場で住民から鞭打ちを受けた事件がありました。当時の被害者のうち4人が、ヒンドゥー教を捨てて仏教徒へ改宗することを決めました。同じくグジャラート州で2012年にダリットの3人の若者が殺害されました。その一人の父親は、「ヒンドゥー教徒から仏教徒になる準備はできています」と語りました。インドのある社会学者は、次のように指摘しています。「残虐行為に苦しむダリットは、いわゆる『低層階級』という屈辱を免れるための解決策として仏教を受け入れてきています。さらに、グジャラート州には、ヒンドゥー教のコミュニティメンバーよりも比較的優れている多数の仏教徒がいます。こうした改宗は、ヒンドゥー教とカーストに基づく差別に対して強いメッセージをもたらすでしょう」(注4)
インドは貧富の差を激しく感じる社会です。その鍵となるカースト制度が、内部からの動きによって変わっていくのでしょうか。そこに仏教はどう関わるのか、注目していきたいと思います。
注釈
(1)Woman born to Muslim-Buddhist couple wants court recognition as non-Muslim
(2)Myanmar monk returns to preaching after ban, denies fuelling Rakhine violence
(3)Sri Lanka lifts ban on Facebook imposed after spasm of communal violence
(4)Una flogging victims to renounce Hinduism, embrace Buddhism
(おわり)