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World Buddhist #30  インド全土を駆け巡ったカシミール州の衝撃

World Buddhist #30  インド全土を駆け巡ったカシミール州の衝撃

 

インドの八月

 日本のお盆の時期は、インドでも祝日があります。八月十五日は日本で終戦の日(1945年)ですが、インドでは独立記念日(1947年)です。

毎年、独立記念日はテロへの警戒を促すアナウンスが流れますが、今年は特に厳重な注意が加わりました。

八月に入って、ジャンムー・カシミール州で大きな動きがあったからです。

 

外の世界、生活の世界

 インドでは、我が家のテレビの問題もあって、インド国内や国外のニュースを知る機会が多くありません。ネットは繋がっているので、そこでニュースをかいつまんでいますが、深く追う余裕がないのです。

インドでは何が起こるかわからないので、目の前のことで精一杯なのもその理由です。例えば、停電がしょっちゅう起こるので、エレベーターに乗っている時に停電が起こったらどうなるのだろうと思っていたら、ついに自分が体験してしまいました。停電になった瞬間に「ガガガガ……!」とエレベーターの箱ごと落ちていき、「死ぬかも?」と感じたその時に、ギュウウーッとブレーキがかかって止まりました。そのあと、停電用の電力が来たようで、一番近くの正常な位置まで少し下がり、機会音声と共に扉が開きました。そこでエレベーターを降り、自分の部屋まで階段を登って帰宅しました。

その一件があってから、エレベーターに乗り込むとまず手すりにつかまります。それから機械の音に耳を傾けます。子供が一緒なら、手すりにつかまらせてなるべく近くにこさせるようにするようにしています。エレベーターの中で悠然とスマホを眺めることはできなくなりました。

 

「死ぬかも?」と思う時

 そういう風に考えてみると、インドでは「死ぬかも?」と思う瞬間が日本にいる時より圧倒的に多い気がします。道路ではカーチェイスをやっているかのごとき交通状況で、人や車、物とスレスレのところを自分や他人の車が行き交います。車線はあってないようなもので、あおり運転や迷惑運転の博覧会のようです。クラクションは感情のままに打ち鳴らされ続けています。日本の暴走族がインドで走ったら全然目立たないと思います。電気や水のライフラインも、突然止まってなかなか復旧しないことがあります。「死ぬかも」までではありませんが、不確定要素の多いインド人と付き合っていくのも油断できない原因の一つです。

 こんな中で、生活とかけ離れた事柄に関心を持つ余裕がないのです。日本と韓国が仲違いしているニュースにも実感が持てません。南アジアのインドで、東アジア系(中国、韓国、日本)のスーパーやレストランは、お互いの商品を扱いながら共存しています。お客であるわたしたちも同じです。

 

ジャンムー・カシミール州で起きた出来事

 さて、八月十五日のインド独立記念日にテロへの警戒が厳重になったことは、デリーにある日本大使館からの一斉メールで知ることになりました。八月五日に突如、モディ首相がジャンムー・カシミール州の自治権を剥奪し、連邦政府直轄地にしたことで、反対派が独立記念日に行動を起こすだろうと予想されたのです。

ジャンムー・カシミールパキスタン政府とインド政府で統治権を巡って争ってきた州です。この州には、ヒンドゥ教徒が多いジャンムー地方と、イスラム教徒が多いカシミール地方、仏教徒が多いラダック地方があります。

ラダックではチベット仏教徒が多数います。ラダックは今回、連邦政府直轄地になったことを概ね歓迎しているようです。それは、ジャンムー・カシミール州に当てられている予算が今までラダックに十分に配分されてこなかったためで、今後は直轄地になったことで直に予算が下りることが期待されます。

ただ、ラダック内部でも宗教や地域によって一枚板ではないようです。イスラム教徒が多いカルギルでは、インド政府の直轄化を望んでいなかったと言われています。また、憲法370条をモディ首相が強引に撤廃したことで、州以外の人物がジャンムー・カシミールで土地を買うことができるようになり、外部からの資本と住人が今後どう影響するのか不安要素もあります。

 幸いにも、独立記念日にテロなどは起きませんでした。今後も事態が悪化せずにうまく収まるように願っています。

 

 

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