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World Buddhist #33 排外主義に抗議デモ 〜インド〜

World Buddhist #33

排外主義に抗議デモ 〜インド〜

 

  • デモによる交通規制にみまわれる 

 ニューデリー日本人学校から、スクールバスが運行できなくなったので子供の迎えに来るようにと緊急連絡が入ったのは12月19日の昼過ぎのことでした。どうやらデリー市内でデモが行われ、それが原因で交通規制が始まったようでした。学校が冬休みに入る二日前の出来事で、たまたま我が家は早めに日本に一時帰国していて、インドにいませんでした。その日の渋滞に巻き込まれた知人によると、普段の三倍くらいの時間をかけてデリーから隣街のグルガオンに帰宅したということでした。

 

 さてそのデモとは、12月12日に施行された改正国籍法に対する抗議デモでした。わたしがその新しい法律を知ったのは、アッサム州で12日に、施行に抗議したデモ隊と警官が衝突し死者が出たというニュースでした。アッサム州はインド北東部にあり、16日にインパールをはじめ北東部で予定されていた安倍首相のインド訪問が中止になりました。

 

  • 改正国籍法が巻き起こした反発 

 この改正国籍法とは、パキスタンアフガニスタンバングラデシュの三カ国から2014年末までにインドに逃れて来た不法移民に国籍を与えるものです。ただし国籍を与える対象を、三カ国で少数派の六つの宗教(ヒンドゥー教シク教、仏教、キリスト教ジャイナ教ゾロアスター教)の信者に限定しました。その中にイスラム教徒は入っていません。そのため、結果的に不法移民のイスラム教徒には国籍を与えることなく、国外追放の対象になります。モディ首相の言い分は、迫害されてインドに逃れて来た少数派の人々を救うためだとしています。三カ国の中でイスラム教徒は多数派の為、救済の対象ではないというのです。

 

 イスラム教徒を排除する新しい法律の内容に、インド国内にいる約二億人のイスラム教徒が反発しました。イスラム教徒だけでなくヒンドゥー教徒など他宗教の人々も、「インドは多宗教の国だ」として抗議デモに加わりました。また、移民が増えることによって職を失うなど不利益を被ると考える人々も、新法に反対しています。デモはインド各地で行われています。デリーにある日本大使館からも、デモに対する注意喚起の一斉メールが届きました。南部カルナタカ州では警官がデモ隊に発砲し二人が死亡し、北部ウッタルプラデシュ州ではデモ隊と警察部隊が衝突し十五人が死亡しました。そこにはデモ中に下敷きになった八歳の少年もいました。

 

  • 吹き出すモディ政権への不満

 デリーの抗議デモはイスラム系の大学を中心に行われたと言われています。大学は1月5日まで冬休みのところが多いそうです。わたしは新年が明けてからニューデリー国際空港に降り立ちましたが、特別に変わった様子はありませんでした。街の中もデモが行われている様子はすでにないようです。

改正国籍法は、昨年から悪くなってきたインド経済から国民の目を逸らさせる目的もあるのではないかと言われています。しかし逆に、経済悪化への不満が今回の件をきっかけに噴出したという見方もあります。また、モディ政権の排外主義や強引な法改正のやり方が、改正国籍法の施行によって看過できないレベルになり、国民の反発を招いて各地のデモにつながっているのではないかという意見も聞きます。インド経済は未だ低迷していると伝えられていますが、現地で仕事をしている人の話によると、高額な商品が再び売れはじめているので景気が上向く兆候ではないかということです。

 

  • 厳冬で悪化する大気汚染

 インドでこの冬は特に寒く、観測史上二番目の寒さだと言われています(ただ、一番寒かったのはいつかという発表はないようです)。それに伴って焚き火が行われているためもあり、大気汚染もひどくなっています。インドに着陸すると、燻したような臭いを感じ、室内でも周囲が白く霞んで見えます。毎年のことですが、今年も現地の学校では大気汚染を理由に冬休みが延長されるでしょう。冬休みが明けて学校が始まるまでまだ時間がありそうですが、抗議デモの動向に注意しながら気をつけて生活していこうと思います。

(次号に続きます)

 

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World Buddhist は日本テーラワーダ仏教協会機関誌「パティパダー」(送料込み600円)にて連載中です。

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次号(パティパダー 2020年3月号)は、アフガニスタンについて書きました。

2月20日以降順次発送予定です。

どうぞお楽しみに!