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Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論

World Buddhist #1 トランプ大統領就任と仏教徒

《今回は、 日本テーラワーダ仏教協会の機関誌「パティパダー paipadā」2017年4月号に掲載された記事「World Buddhist」の連載第一回目「トランプ大統領就任と仏教徒」を、掲載の許可を得て転載します。》

 

 World Buddhist #1 トランプ大統領就任と仏教徒

 

毎日さまざまな出来事が起きています。そのときどう判断し行動していけばいいのか、誰しも悩みます。仏教を学ぶ人なら、ダンマ(お釈迦様の教え)に照らし合わせてその都度の行動を選択していきたいと願うことでしょう。そして実際に、現場の仏教徒たちが何を考えてどう動いているのか、興味の湧くところです。

わたしは仏教のブログを書いているのですが、ネットでブログを書くかたわら、ときどき海外の仏教徒が発信した記事を読んでみたりします。そこでは、ダンマを基に、人々がさまざまな問題にどう対処しているのかをうかがい知ることができます。

 

今年に入ってからの大きな出来事といえば、1月にアメリカでトランプ氏が大統領に就任したことでしょう。トランプ大統領の登場は、アメリカの仏教徒にも当然ながら衝撃が走ったようです。というのも、アメリカの仏教徒情報サイトでは、大統領の発言に対峙するように、人種・ジェンダー・貧困などに関連して書かれた記事が続々と出ています。

 ちなみにアメリカでは、仏教徒はどのくらいいるのでしょう? 2014年の調査によると、アメリカ国内の仏教徒は人口の0.7%(約220万人)で、2007年から2014年までほぼ横ばいだそうです。(注1) 

人口全体ではキリスト教系が半数以上を占めるものの毎年減少傾向で、その一方、「特定の宗派に属さない」という人が急増し、全体の22.8%にのぼるというのが、今のアメリカ社会の特徴ということです。

 

 さて、米大統領就任式の日に合わせて、「今後四年間わたしたちはどう乗り切ればよいか?ブッダの教えから考える」という記事がありました。アメリカ国内の仏教徒によるウェブマガジン「Tricycle」の記事です。(注2) 

そこには、四人の仏教指導者による四つの提案が並んでいます。

 

 そのうちまず一つ目は、仏教史から就任式を考察しています。かつて釈迦族が滅亡させられたことを挙げ、「お釈迦様も、人間の世界から憎しみが消えてなくなることはないと説かれていた。それでも、憎しみ合わないことだけが、憎しみに対抗する方法だ」としています。また興味深いのは、「わたしたちアメリカ人は、もしかしたら釈迦族と同じように、これまでの社会の存続が永久的だと過信してはいなかったか?」という自問があります。そして、無常という観点から、「今まで築き上げてきたものが破壊されたとする。そこで、“今何をすればいいのか?”と問うなら、また初めからスタートするまでだ」と勇気づけています。

 

 二つ目の提案は、「就任式の日に、自らの中に“菩薩市民”を呼び起こそう」というタイトルで、「政治に目を向けるときは、智慧と慈悲、そしてそれを実行する固い決意が重要」と説かれています。社会の差別や暴力に怯える人々の中で、慈悲と智慧を実践する“菩薩市民”としてリーダーシップをとっていこう、という内容です。

 

 三つ目は、ヨガのすすめです。「時代の移行期に体のバランスを安定させるポーズ」として5つのヨガ・ポーズが紹介されています。リラックスすることを主眼に、座る冥想もその中の一つに入っています。ほかには、「山のポーズ」「木のポーズ」「死体のポーズ」「片方ずつ交互に行う鼻呼吸法」が載っています。

 

 最後に四つ目は、禅師による法話になっています。「混乱の中にあっても、こころを落ち着けてください」と語られています。「わたしたちは次の瞬間何が起こるか知ることはできない。今の瞬間さえ知ってはいない。わたしたちは自分で“知っている”と思っていても、本当は何も知らない」と。そういう「知らない」という状態で、わたしたちは現実に突入していかなくてはならないのだ、と説明されています。そのうえで、ニュースの派手な部分ではなく、細部にもっと注意を払わなければいけない、としています。接する情報に対して、感情ではなく、事実に基づいて理性で判断して行動するように促しています。

 そして最後に、次のように結ばれています。

「最も恐れられているのはこのようなことだ。憎悪、暴力、同性愛嫌悪、人種差別、外国人嫌いという、どの社会でも眠っているこれらの問題は、ファシズムを引き起こす可能性がある。(今もうすでに起こりつつあるのかもしれないが)しかしわたしは、盲目的な憎悪が占める割合よりも、アメリカにおける人間的な善のこころがそれを上回っているという期待と確信を持っているのだ」

これは、現状に対してあまり悲観的にならないように、というメッセージだろうと思います。

 

 日々のなかで、まず自分のこころを整えることが最も重要であることは言うまでもありません。そうした実践のうえに、ブッダの教えを学ぶ人たちが世界中で今日も頑張っていることを、こうした記事で実感します。インターネットを介してそういう生の息遣いを受け取り、身近に感じて、毎日の実践につなげていけたらいいのではないかと思います。

 

 

 

 

 注:

  1. アメリカの宗教人口:Pewリサーチセンターによる調査(2014)http://www.pewforum.org/2015/05/12/americas-changing-religious-landscape/
  2. Tricycle : Buddhist Teachings for Inauguration Day and Beyond

https://tricycle.org/trikedaily/buddhist-teachings-inauguration-day-beyond/

 

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paipadā パティパダーは、日本テーラワーダ仏教協会 の各精舎や有縁の寺院などで頒布されています。