前回
「唯我独尊」は事実確認 - 関西ウェーサーカ祭2016(4)
それで三十五歳で覚りを開くんですね。
それまで普通の人間としてやるべきことをやった。結婚は十六歳で早かった。お父さんのことは気になっていたので、いい子として頑張ってみたんですね。
インド文化では、子供は神様を拝むような感じで、父親と母親を拝んで礼をする。
ごく普通の礼じゃない。インドは神様を信仰しているから、神様に拝むのと同じように、父親に母親に礼をするんです。
生まれて五日目、天国の神々がものすごいお祭りをしている。
人間はほとんど知らなかったけれど、天国は大騒ぎ。
この先生が、スッドーダナ王がまだ皇太子だったときに、ビシビシと教えたんです。師匠がえらくて、皇太子はその弟子だから、先生のお世話をしながら、料理を作りながら、弟子入りして勉強したんです。
そこで、この若者が王になったんです。
王になったら立場が違うでしょう。師匠は「あなた、お湯を作ってください」とは言えないでしょう、王様に対して。「水一杯、持ってこい」とかね。
政治社会で問題が起こると困るから、弟子が王になったあと、師匠が出家したんですね。
社会から出ていっちゃったんですね。それでも自分の弟子のことはね、ものすごく大事にしているんです。
師匠は、それから禅定まで達して、人間界はうるさいなと、天界まで行くんです。
行って、その天界で禅定に入っているんです。天界の静かなところで禅定に入ろうかなと思ってみてみると、禅定どころではない、これは。日本のクリスマスみたい。あまりにも派手に大騒ぎ。
「何の騒ぎですか、天国に何が起きたんですか」と。
「この宇宙で唯一、一回だけ起こる出来事が起きたんだよ」と(天界の神々が言った)。
「わたしたちと一緒にいたサントゥシタという菩薩が、人間界に戻ったんですよ。ブッダになりますよ、あっという間に」
天国の時間は長いんだからね、天界の時間では瞬時に、ブッダになる、と。
こんなおめでたいことはないから祭をしますと。
師匠は「どこに生まれたんですか?」
「スッドーダナ王の息子ですよ」
「エッ?」
ということで、スッとスッドーダナ王のところに来たんです。
「アシタ仙人がいらっしゃいました」
と告げられたスッドーダナ王はビックリして、息子が生まれたし、ちょうど五日目で、自分が尊敬している師匠の仙人が来たんだから、喜んで迎えました。
仙人に自分の玉座に座ってもらって、王様が喜んで喜んで。
まず自分が仙人の足に頭をつけて、三回礼をするんです。「よく来ていただきました」と。それから、どんな用事でいらしたんですか、と聞くと、「あなたの息子に会いたい」と仙人は言うんですね。
「ちょっと待ってください」と言って、王は息子を抱っこして来て、ちっちゃな赤ちゃんに「この方はわたしの師匠だよ。礼をしましょう」と言った。
そのとき、赤ちゃんの足を仙人が見ました。
菩薩の足の裏を見て、すぐに仙人が立ち上がっちゃって、この父親が赤ちゃんを無理矢理にでもわたしにあいさつさせちゃうと、大変なことになりますと思って、サッと玉座から立ち上がって、赤ちゃんに土下座で礼をするんです。
父王は、なんだこれはと、わからなくなっちゃったんですね。
自分が尊敬する師匠が、自分の子供に土下座で礼をしている。そこで仙人が言ったんですね。
「この方はただの子供じゃないんだ。生命の中でこれほど優れた人は生まれません。究極です。梵天をはじめとし一切の生命がこの方に礼をするべきであって、この方が礼をするべき人間はいません」
そう聞いたあのお父さんのすごいこと。
自分の赤ちゃんに、
「これがわたしの初めての礼です」
と頭を下げて礼をしました。これも世の中で起こることじゃないんです。だから息子を絶対的に信頼する。あの親子関係というのは、他では起こりえません。
そこで父親が最初の礼をして、仙人が赤ちゃんをじっと見ているんですね。
そして、ニコッと笑って、それから泣き出しちゃったんです。涙がぽろぽろ。
父王が困っちゃって、「何か泣くほどのことがあるんですか」と。
仙人は、
「確かにこの子は解脱に達してブッダになりますよ。しかし泣いた理由は、この子がブッダになって説法するときには、もうわたしはこの世にいない。亡くなったら無色界という梵天に生まれちゃうし、そこでは人間界とコミュニケーション取れない。だからわたしが説法を聞くチャンスを逃しちゃったんだ」と。
もうどうしようもないんですね。
達した禅定を壊すこともできないし。また煩悩に陥ってどこかに生まれて、この赤ちゃんがブッダになった頃に説法を聴くこともできないし。
想像を絶するチャンスをね、逃しちゃったんだよと。
わたしのことを考えて泣いたんだ、と。
(続きます
スマナサーラ長老・ウェーサーカ祭 午後法話 mayadevi 2016.4.29
https://www.youtube.com/watch?v=vYomM7Q2ROY&feature=youtu.be(期間限定公開動画)より書きました。
関連外部サイト:
『アシタ仙人のイラスト』
1…最初の礼拝の図
「シッダッタ太子は仙人の側に抱かれ来て相好のひとつひとつをつぶさに見て語り告ぐ
アシタ仙人はその時この様に確信した
『王よ、汝の子は将来必ず仏陀に成るであろう』」
(絵に添えてあったシンハラ語の文章)