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Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論

World Buddhist #8 アウンサンスーチーと冥想

World Buddhist #8 アウンサンスーチーと冥想

  

 ミャンマーは仏教冥想を実践する人にとって一度は行ってみたい国です。数多くの冥想センターがあり、外国人は宗教ビザで長期滞在して修行することができます。冥想センターの増設や宗教ビザ発券が始まった背景には、「軍部が僧侶たちの人気を挽回するため」(注1)という事情があったそうです。また、アウンサンスーチー氏がヴィパッサナーを真剣に実践するようになったのも、皮肉なことに、1989年に軍部によって自宅軟禁にされてからだといいます。当時、政治犯として投獄された人々も同じように、ヴィパッサナーを刑務所の中で実践していました。

 

国民民主連盟(NLD)ウーティンウー氏

アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)の重鎮ウーティンウー氏は牢獄での日々を尋ねられて、こう答えています。(注2)

「わたしは、決して不幸だとは感じませんでした。でもあるとき病気になって、わたしは弱くなり、少しばかり寂しく感じました。誰かに世話をしてもらいたいと思いました。家族から離されていて、残念だと思いました。しかしわたしは癒され、普通の状態に戻りました」

ウーティンウー氏は、何によって癒されたのでしょうか。

「注意深くあることは正気を保つカギだと思います。何でも、自分のすることを注意深く行うことです。そうすれば、こころの中に否定的な考えが起こる余地はありません。わたしは毎日、刑務所の中で、寺院で僧侶として振舞ったように振舞いました。つまり注意深く振舞いました。こころと体に起こったすべてに注意を払うようにしました。こうして、わたしをかき乱す恐れのある感情から、わたしのこころを自由に保ちました。これは、基本的な真理です」

 

アウンサンスーチー

 1995年、一度目の自宅軟禁を解かれて6年ぶりに行った最初の公的活動で、アウンサンスーチー氏はカレン州のターマニャ僧院のウービナヤ僧院長を訪ねました。ウービナヤ・サヤドーは、カレン族の軍とミャンマー軍とのゲリラ戦で逃げてきた何千人ものカレン族農民を一手に引き受けて世話をしていたそうです。歯に衣を着せぬ物言いで、軍事政権側の行き過ぎを批判し、スーチー氏が政治家になってから最初に支持を表明した仏教指導者の一人でした。この面会の様子を、スーチー氏はのちにこのように明かしています。

「サヤドーが最初に尋ねられたのは、わたしがここへ富を求めてやってきたのか、ということでした。わたしは金持ちになることなどに興味はないと答えました。するとサヤドーは、最も素晴らしい宝はニルバーナ(涅槃)を発見することだとおっしゃいました。わたしは無邪気にもサヤドーが富と言われたとき、物質的な豊かさについておっしゃっていると思ったのです」(注1)

自宅軟禁中、スーチー氏は四時半に起きて一時間の冥想をしていたといいます。サヤドーは政治家としてのスーチー氏が来たのか、または仏道実践者としてなのかと、まず初めに見極めたかったのかもしれません。

またスーチー氏は、1997年には「ビルマからの手紙」にとても内的な洞察を吐露しています。(注3)

「[階段で転倒し休養が必要になり]わたしは多くの時間を冥想に費やすことになった。片手を額に当て、いかにも詩人のような格好をして横になっていると、輪廻から抜け切れない人間にまつわるもろもろの問題、カルマ(業)による生と死と苦の絶え間ない繰り返しが順列組み合わせのようにわたしの前にあらわれる。でも、それらは雪の結晶より変化に富んでいるものの、あのような繊細なかわいらしさは、ほとんどないのだった」

 

マーチダ(Ma Thida)氏

「もしヴィパッサナーをしなかったら、わたしは刑務所で直面した困難を乗り越えられなかっただろう」と語るのは、現在51歳のマーチダ氏。彼女はミャンマー人の人権活動家・外科医・作家で、1994年に「公共の平和を危険にさらし、違法な組織と接触し、不法な文章を配布する」罪で、約6年間インセイン刑務所に入れられました。その劣悪な環境で結核にかかり、半年間に及ぶ発熱が続いても十分な医療を受けられなかったといいます。マーチダ氏はスーチー氏の政治活動を支援しましたが、1999年の著書「The Sunflower」で「スーチー氏は『喝采に囚われた人』だ」として、一人のカリスマに依存せず市民一人一人が行動しなくてはならないと警鐘を鳴らしています。そのうえで、「なぜ、スーチー氏ただ一人が[ロヒンギャ問題で]国際社会から責められなければならないのか?」と疑問を投げかけています。(注4) そして、「わたしはもう彼女の大ファンではないが、スーチー氏一人を責めることはしないだろう」と語っています。

 

混迷の続くミャンマー社会で、人々がいかにして仏道と共に歩んで行くのか――、他山の石として注目していきたいと思います。

 

  1. ティエリー・ファリーズ著、山口隆子、竹林卓訳「銃とジャスミン アウンサンスーチー、7000日の戦い」ランダムハウス講談社 p140、p137
  2. アウンサンスーチー著、大石幹夫訳「希望の声―アラン・クレメンツとの対話」岩波書店 p299
  3. アウンサンスーチー「新ビルマからの手紙1997~1988/2011」毎日新聞社 p61
  4. ‘Why is she the only one blamed?’: Burmese activist on Aung San Suu Kyi Ma Thida was imprisoned by the military regime and now chronicles the country’s political transition https://www.ft.com/content/fb3d9c26-aa93-11e7-ab55-27219df83c97

 

World Buddhistは、日本テーラワーダ仏教協会の月刊誌「パティパダー」に連載中です。

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お問い合わせは日本テーラワーダ仏教協会事務局まで。

 

イギリスにもパティパダーが。すごいですね。