ブッダ ラボ - Buddha Laboratory

Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論、実験結果

World Buddhist #11   #MeToo

World Buddhist #11   #MeToo

 (パティパダー2018年3月号掲載)

 

黙るのをやめた女性たち

 昨年、アメリカで性的被害を受けた女性有名人が声を上げ始め、告発された社会的地位の高い男性が辞任に追い込まれることが相次ぎました。こうした告発を発端に、一般の人々もツイッター上などで自身の性的被害を語り始めました。これは#MeToo(ミートゥー・わたしも)という大きなムーブメントになっています。

 日本でも昨年5月、伊藤詩織さんが、日本の大手テレビ局のワシントン支局長(当時)にレイプされたことを証言しました。伊藤さんの告発によって、日本ではレイプされた女性が不当な扱いを受けている現状と、事件として立件するための証拠を保全するシステムが全く整っていないことがわかりました。また、その当時のワシントン支局長に一旦出された逮捕状が、不可解にも取り消されたという事実が明るみに出ました。その後、ブロガーで作家のはあちゅうさんが、会社員時代のセクハラ被害を告白しました。それを契機に日本でも#MeTooの動きが大きく広がっています。

 

仏教者の反応

 仏教の僧侶や仏教徒は、#MeTooについてあまり多くを語っていないようです。わたしが見た限り、ウェブ上の記事では数える程度です。その中でも、曹洞宗の尼僧Karen Maezen Millerのエッセイが、大方の仏教徒の気持ちを代弁しているように思いました。(注1) それはこんな内容です。

「いつものように、わたしはソーシャルメディアの動きに遅れていました。そしてやっと#MeTooの膨大な書き込みを読んで、いくつかのサンガのグループでこの問題を話し合いました。#MeTooに書かれていることはいつの時代も現実にあったことです。わたしはジェンダーが不均衡でなかった時を知りません。嫌がらせはいつもありました。今やわたしは老いて疲れ切っています」と、過去から現在に至るまでの、社会に蔓延する性差別や性暴力を憂いながらも、次にとるべき行動を示しています。

「わたしは#MeTooで告発されている、その恐怖と痛みを知っています。その苦しみの大きさは、わたしたちに共感と、一人ひとりがすぐにでも良い行動をとる必要性を求めています。自分自身を忘れることができたら、たとえ一瞬であっても、わたしたちの間の壁が溶けて無くなります。その時、#YouToo(あなたも)と、連帯することができるのです」

 

ウィメンズ・マーチ

 1月20日、アメリカ全土でウィメンズ・マーチが行われました。これは昨年、女性蔑視発言が相次いだトランプ大統領の就任に抗議して、女性の権利を守る運動として始まりました。昨年のウィメンズ・マーチには、仏教徒の参加も伝えられ、「ウィメンズ・マーチに参加した5人の仏教徒たち」(注2)という記事が仏教系ウェブマガジンに掲載されました。それによると、この記事に載った5人の年齢は29~54歳で、作家、ミュージシャンなどアーティスト系職業が5人中3人でした。仏教宗派は、The Village Zendo(ニューヨークにある曹洞宗系の禅寺)が3人、マハーヤーナ(大乗仏教)1人、マハーヤーナ研究家の叔父を持つ禅宗という方が1人。彼女たちがウィメンズ・マーチに参加した理由について、トランプが大統領となったことの危機感から、と語られていました。

 今年のウィメンズ・マーチには、#MeTooのプラカードを掲げた人々もいました。しかし、性的被害や性暴力は国や政治を超えた世界共通の問題であるだけに、単なる政治的な争点となるのを危惧する意見もあります。反トランプや政党同士が相手を貶めるために利用することを不安視しているのです。

 また、フランスの有名女優カトリーヌ・ドヌーヴなど、#MeTooの動きに異議を唱える人も少なくありません。

 

インド社会と#MeToo

インドでは、残酷なレイプ犯罪がしばしば起きています。インドで長年働いている日本人女性は、インドで起こるレイプは性衝動というより暴力の連鎖なのではないかと語りました。階級制度の中で精神的に抑え込められている現状で、その男性がより弱い人間に対する最大限の暴力として、女性をレイプするのではないか、ということです。それほどまでに、男性間の階級差による立場関係は絶対的なものだそうです。これは個人的な一つの見解ですが、現地の社会を目撃している人の話として、興味深く聞きました。インドでも#MeTooのキャンペーンはありますが、社会的に身分の低い女性や農村部の女性は除外されてしまっていると嘆く声もあります。(注3)

 

告発とこれから

 #MeTooで世界中の人々が語り始めた性的被害は、誰にとっても無関係ではいられません。程度の差はあれ、もしかしたら少なからず身に覚えがあることでしょう。わたしも、かつての痴漢被害や職場でのセクハラなど、今でも思い出すと気持ち悪いものです。女性だけでなく男性にとっても同様の経験はあるのではないかと思います。もしかしたら自分も、タイミングによっては深刻な性的被害を受けたかもしれません。また、被害者としてではなく加害者になる可能性も、常にゼロとは言い切れないのがわたしたち人間なのだと思います。気づける限り自分のこころを守り、それによって他者も守られるという原則は決して忘れることはできません。そのうえで、傷ついた人の助けになれるように、傷つく人がこれ以上出ないように、何かできることはないかと考えています。

 

 

 

(注1)「You too」 https://www.lionsroar.com/you-too/

(注2)「Meet Five Buddhists Attending the Women’s March」https://tricycle.org/trikedaily/meet-five-buddhists-attending-womens-march/

(注3)「#MeToo campaign excludes India's most vulnerable women, activists say」https://www.reuters.com/article/us-india-women-sexcrimes/metoo-campaign-excludes-indias-most-vulnerable-women-activists-say-idUSKBN1EC1Y9

 

 

<お知らせ>

World Buddhistは日本テーラワーダ仏教協会の月刊誌パティパダー(送料込み600円)に掲載されています。

お問い合わせ先:日本テーラワーダ仏教協会事務局

 

パティパダー4月号のWorld Buddhistは、「世界で読まれている仏教書」について書きました。

インド、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、オーストラリア、中国、ブラジル、日本で、今もっとも読まれている仏教書上位20位までを調べました。そこから各国の仏教ムーブメントや世界の潮流が垣間見えます。仏教書のラインナップはみなさんの予想外かもしれません。パティパダー4月号をどうぞご覧ください。