ブッダ ラボ - Buddha Laboratory

Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論、実験結果

【現代人は悟れない?】パティパダー2023年12月号【智慧の扉】解脱に達する二つの条件 A .スマナサーラ

解脱に達するためには、内的な条件と外的な条件がある。お釈迦様はそう説きました。内的な条件とは、yoniso manasikāra【ヨーニソー マナスィカーラ】(如実作意【にょじつさい】)です。これは先入観・バイアスをはずして物事を認識すること。具体的には、私たちにも馴染み深い「気づきの実践」です。

 

私たちの認識には、感情や文化的、道徳的なバイアスがこびりついています。眼耳鼻舌身意に現象が触れるたびに、否応なくバイアスを通した認識が起こるのです。一般的にはどうしようもないことですが、yoniso manasikāraを実践すれば、この悪循環から抜け出すことができます。Yoniso manasikāraは、現象の真理に達する唯一の道のりであり、最高の善行為なのです。

 

次にお釈迦様は、解脱に至る外的な条件は「善友(kalyāṇamitta【カルヤーナミッタ】)」がいることだと語りました。釈尊が説く「善友」とは、世間一般で言う「良い友人」ではありません。人々が認識バイアスをはずすための手助けをできる人のことです。心は瞬時に変化するので、自動的に入りこむバイアスをなくすのはそう簡単ではありません。自分一人の力でそれをやり遂げたのはブッダだけです。その他の方々は、覚者のサポートを受けて解脱に達したのです。

 

解脱へ導けるような偉大なる人を、お釈迦様が「指導者」ではなく、「善友」と呼んだのはなぜでしょうか? そこには、仏道は「ああしろ、こうしろ」と命令されて動く上意下達の世界ではないのだ、という革命的なメッセージが込められています。覚者から見れば、師匠も弟子もみな「仲間」であって、世にある宗教組織の教祖と信者、グルと弟子の関係とはまったく違うことを示したのです。とはいえ、解脱へのアドバイスを受ける側はそれに甘えず、善友にリスペクトを持ち、その助言には素直に従って修行しなくてはなりません。

 

お釈迦様という「善友」はもういないのだから、現代人は修行を完成できないのではないか?そんな心配は無用です。現代における善友とは釈尊の残した言葉であり、経典の中に溢れている解脱へのアドバイスです。ブッダの教えを聞いたり読んだりすることで、いつでも助けてもらうことができるのです。いくらyoniso manasikāraに励んでいても、人がバイアスに嵌ることは常であり当然のことです。そこで、その度に経典をひもとき、法話を聞き、お釈迦様の助言を受けて軌道修正する必要があります。今でも解脱を目指す人は皆、経典という「善友」の言葉に導かれて、yoniso manasikāraを実践し続けているのです。(了)