質問
「先ほど、『知識は脳に記憶されるだけで、脳が壊れると知識がなくなります』と長老がおっしゃいました。分別はこころに記憶されるので死んでも持っていけます、ということでしたが、一方で自我というのはないと。でも、こころは続くというのはどういうことですか？」
回答（スマナサーラ長老）
変わらない自我があると何も記録しませんよ。何か記録したならば、変わったということですね。だからすべて無常だから記憶できるんです。
変わらないものがわかりやすいというのは、一般的な考えですね。
自我がないからこそ成長があるんですよ。流れるからこそ変化があるんです。だから分別能力であろうと、それは変化するっていることなんですね。だから自分が学べば学ぶほど知識が増えていくでしょう。変化が起きているんです。学んだ自分と学ばない自分は違うものなんです。同じ人格じゃないんです。
古いものがなくなって新しいものが生まれる。だから可能なんです。古いものがなくならない場合はどうにもならない。世の中の自我があるという考えは、まるっきり間違いなんです。
わたしが言えるのは、自我がないからこそ可能なものなんですね。変わることと変化は同じものです。変化はずっと変化する。わたしたちは「変える」というのも入れるんです。変化するからこそ、変えることが可能なんです。
変わる場合は、勝手に因果法則で変わるだけで、成長ではないんですね。ただ変わった。だから仏教徒はそれを輪廻というんですね。
変える場合は、結構都合がいいんです。雨が降ったり降らなかったりすることは、変わる・変化ですね。変えるっていう場合は、必要なとき雨に降ってもらって、必要じゃないときは雨を止めてもらうことができれば、すごく都合がいいでしょう。
それで、今は暑いんですね。それは変わることなんです。一年通して気温が変わっていくんです。天気も変化しますね。そこでわたしたちは、変わることを「変えちゃった」んですね、冷房をつけて。変わらなかったらあり得ないでしょう。冷房をつけても同じ温度と湿度だったら、何にもならない。
そこで変わるものを変えたんだから都合がいいんです。
だから、それに変わらない自我があるというと、大変面倒くさくて、何に頑張っても意味がないんですね、それだったら。自分に自我があるならば何を頑張っても意味がないんですね。いくら頑張っても無駄ですね、変わらないんだから。
だから、記録して続くということは、変わるということなんですね。今も心がずっと変化して、変化していくんですね。こころが変化しないんだったら、わたしが言うことも理解できないんです。だから自分のこころはね、わたしの話を聞く前のこころと聞いた後のこころでは違うんです。変わってしまったんです。だから「変わる」こころよりは、「変える」こころのほうが都合がいいんです。
皆様はスポーツするでしょう。どうせ体はくたびれて変わりますよ。だからわれわれは意図的に、「変わる」体を「変える」ことにする。それでスポーツする人々はそれなりにスマートでいられれます。それは悪くないでしょう。柔軟でスマートな体でいることは都合がいいんです。
それで質問者の方がわからなかったポイントは、自我がなく、なんで続くのかということです。それは無常だから続くんです。
無常っていうことは、流れ、ストリームです。英訳する場合はちょっと気を付けて、無常には決まった単語がありまして、Impermanence*1
という言葉なんですけど、もう一つ、Fluxという言葉も使います。
Fluxは「止まらない流れ」。止まらない、と言ったら、止まらないだけ。「ボールが転がる、止まらない」とすると、ボールが必要になっちゃうんですね。これが一般人の考え方です。それより、たとえるなら「川」なんですね。川はあるのか？ と。あると言いたければ言ってもいいんだけど、実際は水が流れるんですよ。だから川というんです。同じ水が流れるわけじゃないんです。いつだって違う水なんです。でも流れる。
いろいろ変化はできる。流れを替われば、ずっとその変わった流れで流れるんです。川が流れる水路をちょっとずらしたら、水がその路でずっと流れる。
そういう法則で、こころに記憶されるものはその流れで流れていくんです。
知識はそうじゃないんですね。
東京法話と実践会 2015.07.12
http://www.ustream.tv/recorded/67329399 1:10:10～1:19:00（期間限定公開動画）よりメモしました。
関連エントリ：無常と覚り
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