質問
「わたしは冥想を始めて七年くらいになるんですが、ここ最近はもっぱら座る冥想をやっています。
というのは、歩く冥想をすると妄想がすごく出てきてしまって。座る冥想のほうが妄想が少ないので、一時間くらい毎日やるようにしていたのですが……。
全体的には欲望が少なくなってきて、効果があるなと、自分も少し進歩してきたなと思っていたんですが、一週間くらい前に、冥想を終えた後にお風呂に入っていたら突然子供のころの記憶がよみがえってきました。
子供の頃に海の近くに住んでいて、ときどき釣りをしていました。
そのときに、釣った魚の目をつぶしたらどうなるだろうと思って、そうやってしまって、また魚を海に戻したことを思いだしました。
それから、自分の目が見えなくなったらどうしようと強迫観念にとらわれるようになって、座る冥想もできなくなってしまいました。
今後どうやって冥想したらいいでしょうか?」
回答(スマナサーラ長老)
冥想の経験が長いのに、座る冥想ばっかりやっているというのは、自分が便利な方ばかり選んでいるんですね。
やりやすい便利な方を。便利なやりやすい方ばかりやっても、人格は向上しないんですよ。
われわれは、成長したければちょっと難しいことに挑戦しなくちゃいけないんです。これは法則です。
まず、どんな人間も簡単な方法、やりやすい方法、ということばっかりやっていますね。
それでは人間は進化しません。
世の中で有名な人々は、ハチャメチャ頑張っているんですよ。
皆様方が知っているタレントさんも、ほとんど寝る暇がないんです。
昨日もちょっとネットで調べていたら、ある歌手の人が「わたしはもうクタクタ疲れていますよ。だから感動的な声が出て来ないかもしれません。なぜならば今日は三か所で歌って、パフォーマンスやって、こちらに飛んできて、また別なところにもいかなくちゃいけないんです」と。
そういう人々は「ああ、楽や」とかないんですね。ものすごく苦労しているんです。有名人とか人気がある人は、みんな苦労していますよ。
その中で、こころを育てる、人格を向上するというのは一番難しいことで、ちょっと苦労しなくちゃいけないんですね。
苦労とは苦行ではありませんよ。
たとえば、何か月間も研究室にこもって研究する科学者たちが、苦行しているわけじゃないんです。ただ苦労しているだけで、楽しいんです、それが。研究は失敗するわ、またやってみるわ、データを取るわ、で一年、二年、かかっちゃいますね。苦労とは苦行じゃなくて、怠けないでしっかりやることなんですね。
仏道は苦行ではありません。
修行は苦行ではありませんしね。でも、怠けてはできません。
これは皆さまに対して話していますよ。
質問者だけに合わせていないんです。わたしには関係ないとか、これはその人だけの問題だ、というのではないんです。この答えはみんなに答えています。
冥想実践になると、簡単にできることもあって、ちょっとできないこともありますよ。
必ずあります。
そこで初めての方々は、一番やりやすいところから始めて、それから成長していかなくちゃいけないんです。
難しいことはわたしに合わない、やりたくない、と捨てちゃうと、ちょっとそこらへんで人格向上がうまくいかなくなっちゃうんですね。
本当に煩悩がなくなって、怒り嫉妬憎しみがなくなって、こころが穏やかな状態になったのかということは、座っただけではわからないんです。
安全な場所で、鍵をかけて、妄想が出なかったら何が起こるんですかね。何に嫉妬するのか、何に欲が出るのか。何もないんですね。
だからそういうところでこころをいくらか成長させてみて、それから歩く冥想やら他の冥想もやってほしんですよ。
歩くときには色々なものが見えたり、思考が現れたりして、やっぱりこころが弱いんですね。
そこで、物が見えてもこころを安穏に保つとかね。
「嫌だな、これは」と思ったら、「嫌だと思ったらダメです」という感じで、勝負に出なきゃ。自分の部屋だけでいくら訓練してもね。試合に出なきゃわからないんですよ。
そういうわけで、歩く冥想、座る冥想、食事の冥想、いろいろな冥想を教えていますよ。
それを全部やってほしい。
その中で難しい、ちょっとやりづらいものもありますよ。仕方がありません。やらなくちゃあかん。あまりにもやりづらくて「ダメだこりゃ」と思う場合は、やりやすい方をやってから能力をあげて、それでまた挑戦する。
そういうやり方で、すべてのことをパーフェクトにやったほうが、こころはしっかりと確実に成長します。
(続きます
Life is a school - 冥想ができなくなってしまいました(2))
東京法話と実践会 2016.07.24
http://www.ustream.tv/recorded/89905720 (期間限定公開)を聞いて書きました。
関連外部サイト:
ある方からの質問で、妄想が出やすく、先生に相談したところ、「そういう人は、普通歩くくらいのスピードで1時間くらい歩くといい」 と言われ実践していたら大変良いようなのだが、一方腰や足の具合があまり良くなくて、ぎっくり腰などもときどきやってしまう。そのようなときは歩くことが難しいので、それに代わるやり方を教えてほしいとのことです。……