(五戒とお酒(3)酒は百薬の長なのでは?より続きます)
そういうふうにわれわれの生き方が間違っているんだから、道があるのにそれを選ばないんだから、そういうトラブルが世にあるんですよ。
会社でうまく行かないんだからストレスが溜まって酒を飲む。
だったら会社でストレスが溜まらないようにもうちょっと智慧を働かせちゃえば、頭を使っちゃえばいいんじゃないですかね。
人間関係でくじけて「ああ、嫌だ!」と酒を飲んでさらに状況を悪くすることじゃなくて、どうやってなめらからな人間関係を作るのかと、自分で決めればいいでしょう。
それが自分だけの宿題でしょう。自分が会社全体を躾することはできませんね。それぞれの個性の問題で、その中で、自分がくじけないように、ぶつからないように、自分をどうやって計画的にプロデュースするのが宿題でしょう。それをやってないんですね。
そういうことで、世の中はハチャメチャで、仏教が酒を飲んではいけないと言ったとたん、素直に疑問が生まれてくるんです。
「どうして酒を飲んではいけないのか?」と言う質問は世間的にみればおかしくないですよ。仏教から見たらおかしな質問ですけど。
どうして酒を飲んではいけないのかと。適当でいいんではないかと。それは適当は成り立たないんですね。なぜなら、毒だから危険というものは、少々ならいいわけじゃないんです。
ときどき、適当に怒るのは構いませんでしょう、とか、欲はある程度で必要でしょうとかね、みんな言うでしょう。そうじゃないんです。
怒りが、欲が、よくないというならば、わずかな怒りも欲もよくないんです。
問題は、われわれが怒りと欲の衝動で生きていることなんですね。それをダメと言われると、なんか自分の命を奪われるような話に聞こえちゃうんですね。どうやって生きていけばいいのか、欲がないならどうやって商売すればいいのかという問題が出てくるんですね。
その問題をなくす方法を、仏教は丁寧に教えているんです。
まず欲の場合は、われわれの生きる衝動だから、そこが暴走させないことをよく理解する。
人間として生きるために、どうしようもない欲と怒りがあるんですね。
子供がふざけていて宿題もやらないで遊んでいたら、何か言わなくちゃいけないでしょう。「宿題してください」と言っても、子供は興奮していて聞いていない。そこで、「この子は興奮していて話が通じない。その場合は「こらーっ!」とちょっとイントネーションをあげて言わなくてはいけない。「やめなさい!」と言ったとたん子供がビックリして、思考パターンが崩れて、またおとなしくなるんですね。
そういうふうに日常生活の中で、ある程度仕方がない怒りについては、理論が成り立つ世間常識的な怒りについては、気を付けて、「異常な」怒りと欲にならないようにしてください。
二十歳なのに、仕事の経験もないのに、ただ欲しいからと「俺はひと月100万円くらいの給料が欲しい」というのは非常識でしょう。これは異常欲です。
ただ嫌な人だから殺したいというのも異常な怒り。嫌な人だからちょっと避けましょう、とその場をコソッと出ていくは普通の怒り。世間常識的怒りの範囲内です。
だから怒り・欲をなくす人々は、まず常識的な怒り欲の範囲を理解して、非常識な怒り欲とは何なのかと観察して、非常識な部分はカットする。それで楽に生きられる。しかしささやかなトラブルは毎日起こる。それをどうしようかと、またブッダから学ぶ。
仏教では、あなたのささやかな問題も、怒りと欲ですよと。
子供を躾するときは起こったり怒鳴ったりしますが、あんまりうまく行かないんだと。それは怒りだからです。
ですから、怒るのではなく、子供には慈しみをちょびちょびっといれて育ててみてください、とわたしはよく言うんですね。
子供は独立した人間であると。この子の尊厳を侵害しないで、この子が立派な人間になるようにと、愛着を慈しみに替える。そうすると怒らないでいることができます。
わたしは皆さんがビックリするくらい「こら!」とか「なんだこれは!」と言えますよ。しかし怒ってはいません。
スリランカでわたしと付き合いがある若い人々は、わたしが朝から晩まであれやこれやと文句を言っていないと、みんなすごく不安になるんです。わたしの体調でも悪いのかと。なにかトラブルでもあったのかと。そこでわたしが「このバカ、何やってる!」といえば、「あ、大丈夫みたい」と安心する。
この場合はあの若者たちは分かっているんです、わたしがふざけて喜んでいるだけだと。自分たちのことを怒ってもいないし嫌がってもいないと。自分たちのことを心配しているんだから、あれやこれやと言われているだけだと知っているんです。
だから怒りなく怒鳴ると、怒鳴られた側は言われたことをやるし楽しくもなる。そこは結構能力が必要です。
そういうことで、まずは順番に、異常な欲と怒りをやめて、常識的な範囲内にする。それでもやっぱり欲と怒りは細菌だから、それもなくしていく。
そういうふうに、精神のことをわれわれは教えているんです。肉体のことは医者に任せているんです。
病気になったら医者に行けと。精神的な問題だったら、精神を直せばついでに体も治りますよと。健康な状態に戻りますよ。
しかし、たった一項目、酒だけはやめないさいと。酒は体と心の両方を壊すんです。体だけ壊すものには、あんまり何も言いません。
それから、酒は依存する。依存するものはすべてやめてほしい。
(五戒とお酒(5・最終回)五戒で戦う「相手」に続きます)
(東京・法話と実践会 2015.05.10
http://www.ustream.tv/recorded/62088084 よりメモしました)
関連エントリ:
thierrybuddhist.hatenablog.com
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