質問
「どんな場合でも嘘をついてはいけませんか?」
回答(スマナサーラ長老)
(笑)そうですよ。
何か思い出せる? この場合は嘘をついた方がいいという、何か具体的なケースでも、思い出したなら、わたしは助かりますけど。
質問者
「たとえば、医療の現場で、リハビリなどのとき、患者さんが痛みに苦しんでいる状況のなかで、嘘というか、現状よりも少し良いように話をしたりする場合があります。少し話を『盛って』、嘘か嘘じゃないかギリギリのところで言ったりもします。
相手のことを考えての『嘘』ですが、そういうのはいいのかどうなのか、と……」
スマナサーラ長老
今の具体的な例で、大変助かりました。
その場合も、嘘をついてはいけません。
なぜかと言うと、嘘で何も得られないんです。
偽金をプリンターで印刷したっても、それは金じゃないでしょう?
だから、具体的な現実的な世界ですからね。「科学的」というんだから、嘘ではうまくいかない。
たとえば、プラシーボというインチキな薬ありますね。
それでもときどき効き目がある場合がありますね。あれは嘘でしょうか? 薬は嘘ですけど、やっぱり本人のこころなんですね、これで治りますよと、お医者さんがすごく親切にくれた薬なんだから、とそこで患者本人に自信があって、そこでこころが働いて、いくらかいい方向に行く場合があるんですね。
本当の薬だったらね、なんのことなく、「飲んでみな」というだけで治りますね。
いかなる場合でも嘘は良くないんですね。
苦しみのどん底にあっても、患者さんが落ち着くようにしゃべらなくちゃいけない。
たとえば、「誰だって同じことですよ。肉体を持っていたら苦しむことになりますよ。もしかするとわたしだって、あなたと同じ病気になるかもしれません。そこで落ち込んじゃうとなおさら悪くなりますよ」
という方向へしゃべらなくちゃいけない。
「そんなもんだからね。なんとか頑張りましょうよ」と。
それから、「とにかく治してくれ!」と言われるなら、「あなたも知っているでしょう、わたしは神様じゃないんだよ。『治してくれ!』というのはわがままだから、それは体に悪いんだよ」と。
そうやってこころが身体を壊していく真理があるんですね。「わがまま」。
「治してくれ!」と言っても、最後は病気のなるようになっているんだから、これはありえないことを期待しているんですね。あり得ないことを要求すると、なおさらこころは壊れるんですね。
われわれは機械を使っていますね。
機械は、この程度で使ってください、こういう方法で使ってくださいという決まりがあるんですね。それを超えちゃうと、無理しちゃうと壊れちゃうんですね。
肉体も機械なんですね。この機械の取り扱い方が決まっているんですね。一般人がそれをわからなくて、わがままで、「俺は絶対に病気になってやらんぞ」というのは、頑張ってくださいと。「がんになってたまるかい」とか「長生きしてやるぞ」と、とんでもないことを考えちゃう。
だから、そこに対してあなた方が言うと、医学の世界だからわれわれが言うよりも説得力があるんですね。
事実を言った方が、本人が自己管理できますよ。機械の取り扱い説明書をあげたほうがいいんです。それをあげないで「何か押せば動きますよ」というのは、それは嘘でしょう。取り扱い説明書をあげないで、「スイッチを押せば動きますよ」とだけ言うのはよくないでしょう。
本当はいかなる場合でも嘘はついてはいけない。
それでも、「この場合は嘘をついてもいいんじゃないかな」とわたしたちが思った場合は、自分に能力がないということなんですね。
ちょっと頭が悪くない? というメッセージなんです。それは悔しいでしょう、頭が悪いと言われるのは。
だから、嘘をつかないように頑張りましょう。
やっぱりこの場合は嘘をついた方が……ということになったら、自分が能力がなかったということなんですね。
だから皆様も、「嘘をついたほうがいいや」と感じたところで、自分の頭が悪いや、ということなんです。能力がない。
自分自身に能力がないと認めたくないでしょう。だったらそこらへんでちょっと、がんばってみるんですね。どうすればいいのかと。
それで能力も上がるし智慧も現れてくるし、物事がうまくいくんです。
(次回
スマナサーラ長老・東京法話と実践会 2016.06.12
http://www.ustream.tv/recorded/88196045 (期間限定公開動画)を聞いて書きました。
関連エントリ:冥想と五戒の関係
戒律の二番目は、「嘘をつくなかれ」でしょう。嘘をついて人をだましてまで生きていく? 自分も嘘をつかれて騙されたくないでしょう? それで他人には嘘をつくって、どんな態度ですかね。情けないでしょう。自分は騙されたらすごく嫌な気分になっちゃって、攻撃に行くんですよ。その人との関係をまるっきり切っちゃったりして、ほかの人にもその話をしたりして、大変なことをするんですね。自分を嘘でだました人の不幸のために。