ブッダ ラボ - Buddha Laboratory

Namo tassa bhagavato arahato sammāsambuddhassa 仏道実験室の作業工程と理論、実験結果

パティパダー2023年7月号【智慧の扉】 お釈迦様は笑わない

 パーリ経典の中でお釈迦様が笑った記録はありません。お釈迦様や阿羅漢たちは笑わないけれど、全ての苦しみが消えているので、顔が穏やかで微笑んでいるように見えました。私たちが笑うときの心を分析してみると、「予想外だ」「これは変だな」「おかしい」という気持ちがないと笑えないことがわかります。例えば笑い話などでは、あり得ないことが起こるとき人々は笑います。でも、世の中で「あり得ないこと」など何もないのです。全て因縁によって成り立つものだからです。それを知っているお釈迦様や阿羅漢たちは、笑うことがなかったのです。これは阿羅漢果に悟った方々の話で、皆さんに笑うことをやめなさいと言っているわけではありません。

 

 皆さんは日常でさまざまな苦しみを経験しているでしょう。病気、仕事や人間関係のトラブル、家族の問題など、自分だけ特別にとんでもないことが起きてしまったと悩んでいるかもしれません。そのようなときも、「起こるべくして起こったことだ」と冷静に対処したほうがうまくいきます。「大変なことになってしまった!」と慌てるのではなく、「こんな事態になりましたよ」とクールにデータとして受け取ると落ち着いていられるのです。

 

 世の中では、家族の自死という事態に見舞われることもあります。残された家族は大変ショックを受けて、「死ぬほど悩んでいるなら相談して欲しかった」などと悩むのです。とはいえ、そうしたところで自死を止められたかどうかはわかりません。家族が、自死しようとする本人を幾度となく止めたのに、結局は死んでしまったという例もあります。冷静に物事を見ることで、苦しみを増殖させないことが大切です。また、苦しみを長引かせないためにユーモアを持つことも一つの方法です。

 

 笑うこととユーモアを持つことは全く同じではありません。努力しないでも簡単に笑えますが、ユーモアには高度なテクニックが必要なのです。そのテクニックを身につけるために、まず周りを観察してください。草花や小さな昆虫の動きなど観察対象はいくらでもあります。そのとき善悪判断はしないように気をつけます。「昆虫は気持ち悪いな」と思ってしまうとアウトです。例えばカメムシが動いているのを見て「小さな体で頑張っていますね」などと観察すると徐々にユーモアが育っていきます。深刻で難しい局面でも、ユーモアを使って困難を客観視し、軽々と乗り切っていくハイレベルな生き方ができるようになります。

お釈迦様が笑った記録は経典にないと先に述べましたが、パーリ経典をよく読めば、お釈迦様もまたユーモアの達人であったことがわかるはずです。(了)

 

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パティパダーは日本テーラワーダ仏教協会の月刊誌です。

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