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World Buddhist #12 世界で読まれている仏教書

〈World Buddhist #12 世界で読まれている仏教書〉は、日本テーラワーダ仏教協会で毎月発行している〈パティパダー〉3月号に掲載されました。

ここでは、編集部の許可を得て転載いたします。

 

《World Buddhist #12 世界で読まれている仏教書 》

インドの洋書事情

インドの本屋さんにはイギリスの洋書がたくさん並んでいます。本屋さんがある都市によって違うと思いますが、わたしがざっと見たところ、洋書が8割、ヒンディー語の本が2割といった様子です。一般的に海外の品物が高いインドで、本は割安感があります。例えば、「サピエンス全史」の著者ユヴァル・ノア・ハラリの「Homo Deus」は、ポンド価格では8.99ポンド(約1,340円)となっていますが、こちらでは499ルピー(約850円)です。しかも本は消費税がかかりません。ただ、ポンドでの価格が同じでも、本によってはルピーでの価格が違います。昨年のノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロの小説も書店にたくさん並んでいますが、ポンド価格はどれも8.99ポンドなのに、タイトルによってルピーでの値段がまちまちです。わたしは初め、値札のミスかと思って書店員さんに尋ねたら、その書店員さんもミスだと考えてその本を販売元に返却すると答えました。しかし後に自分でインドのAmazonを見たところ、値札が間違っていたわけではないとわかりました。元の値段が同じでも、タイトルによって売り値を変えていたのです。なんともインドらしい一件でした。

 

インドでどんな仏教書が読まれている?

 そんなインドでは、どんな仏教書が人気なのでしょうか。個々の書店は取り扱い数に差が大きいので、Amazon Indiaでランキングを見てみました。上位3位は……

  1. Siddhartha (シッダールタ) ヘルマン・ヘッセ
  2. The Art of Happiness: A Handbook for Living ダライ・ラマ著 (邦題:ダライ・ラマ こころの育て方)
  3. The Miracle Of Mindfulness: The Classic Guide to Meditation by the World's Most Revered Master (Classic Edition) (邦題:〈気づき〉の奇跡 暮らしのなかの瞑想入門)ティク・ナット・ハン著

 

上位20位のうち、ヘルマン・ヘッセは2冊、ダライ・ラマは4冊、ティク・ナット・ハンは5冊を占めていました。6位にソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」、13位には、松本圭介著「お坊さんが教えるこころが整う掃除の本(邦題)」がランクイン。掃除のお手伝いさんを雇うことが珍しくないインドで、この本が広く読まれていることが意外です。

 

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリアの売れ筋は?

 仏教と掃除または部屋の整理整頓という結びつきは、アメリカでも人気があるようです。アメリカのAmazonランキングでは、仏教書部門の1位に日本人整理整頓家・近藤麻理恵の著作が入っています。2位はエックハルト・トールのオーディオブック、次いで1位の本のオーディオブック無料トライアル版が3位に。4位にはダライ・ラマデズモンド・ツツ南アフリカ平和運動家、アングリカン・コミュニオン南部アフリカ聖公会の元ケープタウン大主教1984ノーベル平和賞)の対談本「The Book of Joy: Lasting Happiness in a Changing World」がランキング入りしています。

 イギリスのAmazon仏教書ランキングでは、前述の「お坊さんが教えるこころが整う掃除の本(邦題)」が2位にランク入り。1位はキンドル読み放題対象のビギナー向けの仏教入門になっています。ダライ・ラマが20位中に6冊、ティク・ナット・ハンは1冊、ヘルマン・ヘッセは2冊が上がっています。インドの洋書はほとんどがイギリスからのものなので、インドのランキングと近いものを感じます。

フランスのAmazonではランキング1位と3位に、フランスで初めて精神医療に瞑想を取り入れたと言われるクリストファー・アンドレ医師の著作が並んでいます。2位はフランスを代表する著作家で哲学者のフレデリックルノアール。5位にフランス在住のティク・ナット・ハン、6位にソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」、18位にダライ・ラマが入っています。

 Amazonドイツでは、1位が日めくりカレンダーで、自己啓発的な文章やヨガのポーズ、料理のレシピ、細密塗り絵など毎日違ったアイディアが盛り込まれています。2位はアチャン・チャーの弟子アチャン・ブラーム、3位がダライ・ラマの著作です。4位にソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」、6位と17位に鈴木俊隆、7位にはアチャン・チャーに弟子入りした経験があるジャック・コーンフィールド、8・11・19位にティク・ナット・ハンが入っています。

 オーストラリアで活躍しているアチャン・ブラームの著作は、Amazonオーストラリアで21位にランクインしていました。オーストラリアのランキングは1位2位ともにH・グラナタラ長老が、3位にダライ・ラマ、4位にソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」のオーディオ版、5位に松本圭介著「お坊さんが教えるこころが整う掃除の本(邦題)」のオーディオ無料トライアル版、16・17位にH・グラナタラ長老、18位にティク・ナット・ハンを紹介したノンフィクションが入っています。ティック・ナット・ハン自身の著作物が20位以内にランクインしていないのは、今回調べた中でオーストラリアと日本のみでした。

 

中国、ブラジル、日本では

Amazon中国で今一番売れている仏教書は、ソギャル・リンポチェ「チベットの生と死の書」です。次いで同じくチベット仏教僧侶Dzongsar Jamyang Khyentse リンポチェの著作が4位まで続き、5位には一行禅师(ティク・ナット・ハン)が入っています。また、17位に鈴木俊隆著「禅者的初心」が上がっています。

ブラジルのAmazonランキング1位は、サンパウロ生まれでのちにインドで修行した宗教家の著作です。2位から5位まではチベット仏教の僧侶による本で、6位に曹洞禅の尼僧Monja Coenの著作が上がっています。Monja Coenは、「World Buddhist #5ブラジル仏教」  でご紹介した映画「ブラジル仏教」に登場する孤圓老師です。20位中3冊がMonja Coen著作本になっています。また、ブラジルでもティク・ナット・ハンが14位に入っています。

日本のAmazonランキングでは、1位がスマナサーラ長老の「怒らないこと―役立つ初期仏教法話〈1〉」、2位が大白蓮華2018年2月号、3位が佐々木閑宮崎哲弥「ごまかさない仏教: 仏・法・僧から問い直す」でした。スマナサーラ長老が20位中に5冊、創価学会系が3冊、仏像やお寺の図解本が2冊それぞれランクインしています。今回の調査で日本のランキングでは、他の国々のようにチベット仏教系やティク・ナット・ハンの著作が上位に入っていませんでした。

 

ベストセラー仏教書に見られる世界の流れ

世界で読まれている仏教書は、チベット仏教、ティク・ナット・ハン、禅宗(お掃除本を含む)、テーラワーダ、精神医療に応用したもの、と大きく分けられることがわかりました。またランキングからその国の様子が見えてくるような気がします。

 

(了)

 

 

(注:Amazonランキングの調査はいずれも2018年2月19日〜21日のものです)

 

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